第二章 地域資源を活用する

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第一節 本章の概要

今回筆者が何故「地域資源をどう活用するか」というリサーチクエスチョンに「地域資源を使いやすく編成していく必要がある」という仮説を置いたかというと、それは小林(2011)小林理(2011)「地域におけるネットワークと資源開発:分析視点の深化についての試論」『ソーシャルワーク研究』No.1, Vol.37(p.45).によるウォルマン.S(1996)の編成する資源モデルの分析や、「社会資源がどれだけクライエントにとって自分のものになっているかが支援のポイントである」という意見に示唆を受けたためである。またその上で、本章ではチャールズ・A・ラップとリチャード・J・ゴスチャ(2014)チャールズ・A・ラップ & リチャード・J・ゴスチャ著, 田中英樹監訳(2014)『ストレングスモデル:リカバリー志向の精神保健福祉サービス【第4版】』金剛出版(p.74).の「地域を資源のオアシスとして捉える」という見解を採用した。本章では地域資源の活用モデルとその事例を対象に、文献研究により検証を行うこととする。

第二節 地域資源の活用モデル

小林(2011)小林理(2011)「地域におけるネットワークと資源開発:分析視点の深化についての試論」『ソーシャルワーク研究』No.1, Vol.37(pp.43-45).は資源活用の視点の特徴として、資源が個人を補完するモデル、編成する資源モデル、創出型の理論モデルの3つに分けて整理し、「社会資源を単なる多寡で見る視点から、資源とクライエントとの関係性自体が資源であるとする視点へ深まった」という流れを分析した上で、「社会資源がどれだけクライエントにとって自分のものになっているかが支援のポイントである」という考察を導き出している。

筆者はその中でも「資源とクライエントとの関係性自体が資源であるとする視点」のうち、編成する資源モデルに着目し、以下にウォルマン.S(1996)の文献から再整理をすることとした。

福井(1996)福井正子(1996)『家庭の三つの資源』河合書房新社(pp.47-49).によると、ウォルマン.Sが提示している編成する資源モデルとは、「時間、情報、アイデンティティ」であり、高度に産業化された都市環境における家庭生活のプロセスの説明のため、「土地、労働力、資本」という経済的資源のモデルに新たに加えられたものであった。そして「土地、労働力、資本」は生活のハード面にあたる構造的な資源であり、「時間、情報、アイデンティティ」は生活のソフト面に当たる編成的資源と名付けられている。つまり、「土地、労働力、資本」という構造的な資源の枠内でことを決定し、その環境の制約とうまく折り合い、チャンスに出遭ったり、問題の解決に当たったり、役に立ちうる機会をうまく活用することが「時間、情報、アイデンティティ」という編成的資源なのである。ここで、一つの例示福井正子(1996)『家庭の三つの資源』河合書房新社(p.50).を見てみよう。

誰かが同じ教会に属していたり、同じ故郷の出身だといって自分に金を貸してくれたら、その人の民族的な出自は一見したところ経済的な資源の価値だといえる。しかし、その人は自分と同類だからというので金を貸してくれるのであり、自分もまたおたがいのきずなが確かなものだからこそ借金が頼みやすいのである。こう考えると、民族の出自は双方にとってアイデンティティの資源でもある。

この例における「同じ教会に属している人」、「同じ故郷の出身の人」という点を見ると、この事例が構造的な資源の活用事例とも言えるし、「同類と見なされる関係性」や、「借金が頼みやすい信頼関係」という点を見ると、編成された資源の活用事例にも見えるだろう。こうした後者の編成する資源モデルは、地域資源のとらえ方に「資源とその人との関係性」という新たな視座を加えることとなった。

そして筆者はこの「資源とその人との関係性」という地域資源の開発には、チャールズ・A・ラップとリチャード・J・ゴスチャ(2014)チャールズ・A・ラップ & リチャード・J・ゴスチャ著, 田中英樹監訳(2014)『ストレングスモデル:リカバリー志向の精神保健福祉サービス【第4版】』金剛出版(pp.252-253).のストレングスモデルの資源の獲得の考え方が効果的に機能するのではないかと考えている。ストレングスモデルにおいては、「人は助けたがっている」、「人は、情報と支援を必要とする」、「クライエントが望んでいることが取り組みを駆動する」という3つの社会資源の考え方があるからだ。もちろん誰もが援助をしたいと思っているわけではないし、関わりに同じように熱心なわけでもない。しかし地域には、大学に求められていることを満たすため、社会的、宗教的理由のため、自分の才能を他の人と分かち合いたいと思うため、与えることがその人の一部となっているため等、様々な動機付けから援助をしたいと思っている人がいる。また地域のそうした潜在的な資源である人びとは情報と支援を必要とする。そしてその取り組みは、援助を受ける人の望んでいることによって駆動されるのである。

これらの考え方からは、インフォーマルな資源の活用の可能性が示唆されないだろうか。つまり、助けたがっている地域住民が必要とする情報や支援と結びついたとき、それは助けたがっている人にとっても、援助を求めている人にとっても、先に上げた編成的資源になるのではないかと筆者は考えるのである。

第三節 ファミリーサポートセンター事業について

こうした地域資源の活用モデルにおける具体例として筆者が注目したのが、ファミリーサポートセンター事業である。その事業は単にボランティアを受けたい人と行いたい人がつながる場として機能するだけでなく、アドバイザーという立場が介入している点が特徴的といえる。このアドバイザーが、先にあげた地域資源の活用モデルにおける情報の提供者として、地域資源を使いやすく編成していく役割を担うのではないかと考えたのだ。以下は厚生労働省(2019)厚生労働省(2019)「子育て援助活動支援事業(ファミリー・サポート・センター事業)について」(2021/01/04閲覧).(※外部サイト参照)の図を参考に筆者が作成したファミリーサポートセンター事業におけるボランティアを受けたい人と行いたい人、そしてアドバイザーの関係を図解したものである。

figure4

図4 ファミリーサポートセンター事業のスキーム

ファミリーサポートセンター事業は平成27年度の「子ども・子育て支援法(平成二十四年八月二十二日法律第六十五号)」の施行に伴い、「地域子ども子育て支援事業」として全国で863市区町村が実施している(平成29年度基本事業の実績)厚生労働省「子育て援助活動支援事業(ファミリー・サポート・センター事業)について」(※2020/12/25閲覧).(※外部サイト参照)

林寛子(2015)林寛子(2015)「地域で支える子育て支援参加者のコミュニティモラール:ファミリーサポートセンター事業の調査をもとに」『社会分析』No.42(pp.46-48).によると、その活動は1982年に全国地域婦人連合会が旧労働省の補助事業として始めたファミリーサービスクラブが原点であり、事業開始時は育児と介護の両立を対象としていたが、徐々に育児だけを対象とする事業になっていったという。また当時報酬は400円~500円程度であり、発足当初は「婦人の安い労働力の提供」と労働組合等からの批判もあったが、生活の中の困りごとを会員同士が助け合うシステムとして理解されてきたという経緯があったという。

この上で、林(2015)林寛子(2015)「地域で支える子育て支援参加者のコミュニティモラール:ファミリーサポートセンター事業の調査をもとに」『社会分析』No.42.は「ファミリーサポートの援助関係を介して、血縁や地縁のネットワークがない若い世代が地域住民と繋がり、社会的なネットワークをもつことに繋がる(pp.60-61)」という可能性を展望している一方で、ファミリーサポートセンターの会員数が援助を行いたい会員より援助を受けたい会員の方が多いという現状から、「援助を受けたいというニーズがあるのに対し、提供できない状況が生じる可能性があり、ファミリーサポートセンターの課題となっている(p.49)」点も指摘している。

では実際に現場では、このファミリーサポートセンター事業のどのような可能性や課題が検討されているのだろうか。それは次章で紹介することとする。

第四節 本章のまとめ

以上のことを踏まえ、「地域資源をどう活用するか」というリサーチクエスチョンの仮説は「地域資源を使いやすく編成していく必要がある」から「情報と支援が必要となる」と具体的に立て直され、なおファミリーサポートセンター事業という次の社会調査研究につながる事業に着目することができた。

次章ではその実態を知るべく、「必要な情報をどのように住民に伝えていくか」というリサーチクエスチョンと「広報の工夫が必要である」という仮説を持って、ファミリーサポートセンター事業への調査結果を記すこととする。