抄録
Ⅰ. キーワード
「人口減少社会」「地域福祉」「子育て支援」
Ⅱ. 研究の背景
本研究の動機に至る流れは、筆者が2012年度秋セメスターの社会福祉基礎演習2で「少子化は危機なのか―日本の課題を捉え直す―」という題の小論文を書いたことから始まった。その結果、小論文作成の中で「人口減少は新しい豊かさへの入り口である」という新たな仮説を持つことが出来たが、具体的な対応策としてはもう少し焦点を絞り検討していく必要性も感じることとなった。よって卒業論文でもこの問いを扱い、小論文では政策の側面を想定していた枠組みの概念を地域福祉の側面に移し、人口減少社会における子育て支援を検討していくこととした。
Ⅲ. 研究目的
本研究の目的は、論題の通り「人口減少社会における子育て支援を考える」ことである。そこに「人口減少社会は、新しい豊かさへの入り口である」、「地域福祉が鍵となる」という2つの大仮説を置き、その仮説検証にあたり「新しい豊かさとは何か」、「地域資源をどう活用するか」、「必要な情報をどのように住民に伝えていくか」というリサーチクエスチョンと、それぞれの仮説である「拡大・成長に代わるものである」、「地域資源を使いやすく編成していく必要がある」、「広報の工夫が必要である」という小仮説を置き、考察を進めることとした。
図1 本論文のスキーム
Ⅳ. 研究対象・方法
文献研究では、人口減少に至る経緯と地域資源の活用モデルを対象とし、社会調査研究では、A市区町村ファミリーサポートセンター(以下、Aファミサポ)のアドバイザーと会員、及びその関係者を対象とした。社会調査研究の依頼方法としては、Aファミサポに直接電話連絡をし、調査の依頼を行った。また実施方法は半構造化面接法におけるインタビュー調査を行い、分析方法は逐語録と要約を作成し、その内容をKJ法を参考にした三段階の質的分析にて行った。
Ⅴ. 研究結果
文献研究では、日本の総人口の減少は2006年から、自然増減数(出生数から死亡数を減じたもの)のマイナス傾向は2007年から始まり、その現象は日本の経済や社会保障に負担を及ぼすという問題の所在が発見された。しかしながらその問題の所在は「本当に豊かで幸せを感じられる社会をつくっていく格好のチャンスあるいは入り口と考えられるのではないか」という広井(2013)の観点からもとらえ直された。また地域資源のとらえ方にはウォルマン.S(1996)の編成する資源モデルと、チャールズ・A・ラップとリチャード・J・ゴスチャのストレングスモデルの視座が加えられ、その具体的な施策としてファミリーサポートセンター事業が着目された。
社会調査研究では、インタビュー調査によりAファミサポに関係する4名から回答を得ることができた。そしてその要約や逐語録からAファミサポの構造を「広報の目的と工夫」、「主な相談の種類と形態」、「個別的な支援の必要性」、「子育てのギャップとその対応」、「マッチングと活動報告書」、「子ども家庭への配慮」、「情報をつなぐ」、「情報をつなぐ場の提供」、「Aファミサポの良さ」という9つの大コードに分類した。
Ⅵ. 考察
文献研究では、「新しい豊かさとは何か」というリサーチクエスチョンへの仮説を「人と人との新しいつながりである」と立て直し、かつその新しさは我々日本人が既に経験していることであり、それをどのように現代に再構築できるかがテーマになると考えた。また「地域資源をどう活用するか」というリサーチクエスチョンの仮説も、「地域資源を使いやすく編成していく必要がある」から「情報と支援が必要となる」へと具体的に立て直し、社会調査研究の基盤を構築した。
そして社会調査研究では、広報以外にもコーディネートや環境調整、ネットワーキング等の工夫全てが情報という地域資源の活用につながると考え、「必要な情報をどのように住民に伝えていくか」というリサーチクエスチョンに「情報を発信し、つなぐ工夫が必要である」という新しい仮説を生成することができた。
図7 本論文のスキーム(最終版)
Ⅶ. 結論
本研究の「人口減少社会における子育て支援を考える」という目的は、社会調査研究において「子育て前の若者の活力を活かす」、「人と人とのつながりを見守る支援」、「住民の時間の尊重と支え合いの促進のバランス」、「本人を参画させていくネットワーキング」という4つの取り組みの可能性の発想を持って達成された。
Ⅷ. 今後の検討課題
本研究においては、子育て支援を利用する親や提供者という大人の観点は含まれていたが、実際に預けられている子どもの満足度や、過去に預けられていた経験を持つ者の意識調査等、「子どもの観点」によるデータが不足していた。また本研究を進めるうちに、障害のある人や同性パートナーを持つ人々等、多様な地域の人々を子育て支援に誘うことの必要性についても考えたため、これらを今後の検討課題としたい。