第一章 谷中輝雄はどのように精神科ソーシャルワーカーとしての価値を形成したか
第四節 「いこいの家」の実現過程(1/3)
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Ⅰ. 本節の目的
本節の対象は、谷中の「いこいの家」という考えの実現過程である。第2節、第3節と異なり、対象を価値の形成過程ではなく実現過程とした理由は、実際に「いこいの家」という考えが1999年に「精神障害者地域生活支援センター」として「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」に法定化されたからである。この「いこいの家」という考えの実現過程は、孝橋正一(1952)孝橋正一(1952)「ソーシャル・アクション―Social Action―」日本社会事業短期大学編『社会福祉辞典』(pp. 312-313), 福祉春秋社.の「社会的に望ましい目的のために世論をよびさまし、立法的・行政的措置を講ずるように計画された組織的・合法的努力(ウイツトマー)」(p.312)というソーシャルアクションの定義と一致する。よって、本節ではソーシャルアクションの観点より「いこいの家」という考えの実現過程を明らかにすることを目的とした。
Ⅱ. ソーシャルアクションとは
本節におけるソーシャルアクションの定義は上記に示した孝橋(1952)の定義を採用した。何故なら、考橋(1952)の定義における「社会的な目的」、「世論をよびさます」、「立法的・行政的措置を講ずるように計画」、「組織的・合法的努力」という要素は、時代によってその具体性が多様でありながらも、その後の各種辞典におけるソーシャルアクションの定義においても共通するからである。表6は、ソーシャルアクションの先行研究である横山壽一・阿部敦・渡邊かおり(2011横山壽一・阿部敦・渡邊かおり(2011)『社会福祉教育におけるソーシャル・アクションの位置づけと教育効果―社会福祉士の抱く福祉観の検証―』金沢電子出版., pp.405-414)の研究を参考に各種辞典のソーシャルアクションの定義を考橋(1952)の定義に沿って整理した表である。
一方で、近年わが国においては、東日本大震災後のエネルギー問題に対するコミュニティ発電所の取り組み(古屋将太, 2013古屋将太(2013)『コミュニティ発電所―原発なくてもいいかもよ?―』ポプラ社.)やSNSを活用した待機児童解消を求める運動(田渕紫織・中井なつみ, 2017年12月7日田渕紫織・中井なつみ(2017年12月7日)「#子育て政策おかしくないですか―待機児童の親や「先輩」、SNSで政治動かす―」『朝日新聞』, 夕刊, 東京本社版,1面.)、全国各地で展開されているLGBTの人々のレインボーパレード(「『多様な生き方』求めて行進―青森レインボーパレード―」2018年6月27日「『多様な生き方』求めて行進―青森レインボーパレード―」(2018年6月27日)『朝日新聞』, 朝刊, 青森全県版, 26面.)、学内における性暴力の問題解決に向けたハンドブックを学生主体で作成した新たな学生運動の形(阿古真理, 2021年8月16日阿古真理(2021年8月16日)「慶大生が『性的同意』ハンドブックを作った理由」『東洋経済オンライン』.(※論文完成後に出会った記事ですが、これだ!と思ったため追記しました。))(※外部サイト参照)など、新しいソーシャルアクションの展開が試みられている。
この上で、本節において「谷中の『いこいの家』という考えの実現過程は現代のソーシャルアクションとどのような共通点を持つか」というリサーチクエスチョンを置き、探索的分析を行うこととした。このことは、ソーシャルアクションの本質を掴み、人々が社会構造的な問題に取り組む上での効果的な方法を展望することにつながると考えられる。
Ⅲ. 方法
本節における「いこいの家」という考えの実現過程分析は2段階で行った。第1に、「いこいの家」につながる言葉が時代によってどのように使用されているかを時系列に整理し、その実現過程の特徴を抽出した。第2に、第1で抽出された特徴を高良麻子(2017)髙良麻子(2017)『日本におけるソーシャルアクションの実践モデル―「制度からの排除」への対処―』太洋社.のソーシャルアクション実践モデルと比較検討し、その共通点を探索した。比較対象に高良(2017)のモデルを選定した理由は、その元となる事例分析が概ね2000年以降の実践を対象としているからである。この高良(2017)のモデルと谷中の「いこいの家」という考えの実現過程を比較することにより、谷中の「いこいの家」という考えの実現過程が現代のソーシャルワークとどのような共通点を持つかを明らかにすることとした。